京都を拠点に活動されておりますアーティスト武田 真彦様が、植物発電キットを使った作品「Bio Control Voltage Module」を発表されました。
 そこで、武田様へ作品や植物発電キットについて、お話を伺わせていただきました。


植物発電インタビュー

武田真彦

京都を拠点に活動する音楽家、アーティスト。
同志社大学商学部卒業、Central Saint Martins Couture Tailoring 修了。
家業であった西陣織「大樋の黒共」の廃業を背景に、残された素材・技術・歴史を継いでいく見立てを通じて、サウンドインスタレーション、パフォーミングアーツ、現代美術、工芸など幅広い領域における作品を制作。

http://masahikotakeda.com


作品「Bio Control Voltage Module」インタビュー


植物発電キットを使った作品「Bio Control Voltage Module」について、作品を作ろうと思ったきっかけや、キットを知った経緯などを教えてください。

 私は、「音」を基点として作品を制作するサウンド・アーティストとして活動しています。個人の作品制作に加えて、さまざまなアーティストとコラボレーションを行いながら表現の幅を広げているのですが、そのなかでもよく制作をご一緒するアーティストに、林智子さんという方がいます。
 林さんは、『人と自然を含む森羅万象の相互関連性』をテーマに、自然科学の思考を取り入れた作品を制作しており、テクノロジーを有機的に使って、人の原体験に触れるような、五感を刺激する作品づくりをされています。
 林さんとの制作のなかで、自然のバイオリズムをどのように作品に反映させることができるのか?という観点で話し合っていたところ、プロジェクトでご一緒していた日本電通株式会社さんから、Nisoulさんの植物発電を紹介してもらった、というのが経緯です。

 私の個人的な考えとして、曲を作るときにまずメロディを考えて音を作る、という行為があまり好きではありません。いかに自分の意図や手から離れて音を構成していくか、を常に考えています。音を流す環境や空間、その場所の文脈からインスピレーションを得て音を組み立てています。そのことによって、空間のなかで人が音から気づきを得て、心地よいと感じることができると考えています。
 今回、植物発電を用いた作品に、シンセサイザーを利用しました。シンセサイザーは電圧により音を変化させることができるため、植物発電で生み出した電気がそのゆらぎによって、音を自然と奏でられるのではないかと思ったからです。


作品づくりのこだわりなどはありますか?

 手を加えるというよりは、自然に委ねることで、気づきや偶然性を与えられるものが良い作品と考えております。

植物発電インタビュー

植物発電キットを使っての作品づくりにおいて、苦労した点やイメージとの差などはありましたでしょうか?

 まず、植物発電キットについては「本当に音が鳴るのか?」と正直に思いました。実際に試してみて音を奏でることはできましたが、そこからのチューニングは大変でした。

 植物発電は、自然からエネルギーを発生させるため、不安定な電気が届くものだと想像していました。しかし、実際は、一定に調節されたキレイな電圧でした。もちろん、一般的な給電の需要を考えると電圧は一定が好ましいのですが、自然のゆらぎを使った作品にはその機能は必要ないと思いました。だから、電圧を調整する仕組みをなくしてもらうよう相談させていただき、実装できました。

 また、作品としてギャラリーに展示するにあたり、キットは形状としては棒2本。これを作品としてどうみせるかも考えました。今回作品を発表した展示会は、器物を制作するセラミック・アーティストとのコラボレーションでの開催でしたので、植物発電キットがうまく刺さる穴を2つ開けていただいた鉢を作ってもらいました。そこに、土・水・苔を使って発電環境を作り、何とはいえないどこか匿名性のある動物のようなシルエットの作品が出来上がりました。

植物発電キット

植物発電キットを使ってみて、今後、植物発電に期待していることや改善してほしい点はありますか?

 植物発電キットに、バリエーションが欲しいです。例えば、棒の長いものや短いもの。また、形状が異なるもの。それによる電圧の違い。こういったバリエーションがあれば、作品づくりに活かせると思います。

 あと、植物発電には2つの考え方があると思います。
 先述したように、植物発電で安定した電気を供給すること。そして、植物だからこそ生まれる不安定さがあるということです。今の植物発電キットは、きれいに電気が通り過ぎて、不安定さがないと感じました。きっとメーカーとしては大切なことだとは思いますが、一方で、電圧にムラがあることで、自然の息遣いやゆらぎを感じることができると思うのです。
 例えば、屋外で明るいときと、暗いとき、天候の変化などで、発生する電気の変化が生まれると想像しています。さまざまな環境の変化に呼応する発電があれば面白いと思います。安定とゆらぎが、切り替えられると良いのかもしれないですね。
 もう一つ、電圧をもっと増やすことができると、さらに作品にバリエーションが生まれるのではないかなと思います。


今後、植物発電キットを使った作品や研究などを後押しするコンテストを開催したいと思っております。これから作品を作る人に向けて、何かアドバイス等はありますでしょうか?

 まず、植物発電キットという存在とその仕組みを知ることだと思います。知ることが刺激になります。植物発電キットを通じて自然と向き合うことで、様々なアイデアを得られます。
 植物発電キットは持ち歩けるので、いろんなところで実験ができることに、可能性を感じています。例えば、普段、風の音や環境音で自然を感じられることはあっても、自然の中で電気を感じられることはない。ただ、土に植物発電キットを埋めることで、そこに電気を感じることができる。そういった視点の積み重ねが、新しいアイデアにつながっていくと思います。
 今回、私自身、キットの機構の部分でいろいろと相談させていただきました。こういった形で相談できる窓口があると、アーティストも安心して作品づくりができると思います。


インタビューを経て

 植物発電という自然界の仕組みから発電する仕組みにおいて、安定さが逆に不自然さにつながってしまうという観点は、植物発電に発電の安定さを求められてきた我々には思いつかない、いや忘れてしまっていた視点に気付かせて頂いたようなインタビューとなりました。植物発電キットを使った次の作品も考えておりますとのことで、今から非常に楽しみにしております。
 武田様、この度は、貴重なお時間、ご対応ありがとうございました。


作品情報

植物発電インタビュー

Bio Control Voltage Module – Masahiko Takeda
(植物発電によるコントロール・ヴォルテージ モジュール)

植物発育により発生するエネルギーを電気に変換する「植物発電」の技術を用い、 モジュラーシンセサイザーの音をコントロールするモジュール。
環境に依存する植物発電により、大きなタイムスケールで電力が微細にゆらぎ、空間の音を作曲していく。

制作|2022年
素材|マグネシウム板、備長炭、ケーブル、植物、土、陶磁器
サイズ|W185×D95×H60mm
制作協力|
日本電通株式会社 https://www.ndknet.co.jp/
株式会社ニソール
野田ジャスミン

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